福岡県における作業従事者に影響を及ぼす環境因子(電磁場等)の実態調査
調査研究課題名
福岡県における作業従事者に影響を及ぼす環境因子(電磁場等)の実態調査
主任研究者
馬場 快彦(福岡産業保健推進センター所長)
共同研究者
黒木 孝一(黒木労働衛生コンサルタント事務所)
東  敏昭(産業医科大学産業生態科学研究所)
保利  一(産業医科大学産業保健学部)
葉山 勝美((財)西日本産業衛生会)
1.はじめに

 近年、多くの事業場で快適職場の実現が提唱されている。実際には、コンピューター等の導入が進み、職湯のOA化、FA化に伴って、従来問題視されていなかったVDT作業での低周波電磁界や作業場内での低周波騒音等による不快感の訴えが多く発生している。
 法令では、特定の有害業務についてのみ、職場環境の測定・評価を規定している。しかし、電磁界や低周波騒音については、測定が行われていないため、実態を把握せずに、マスメディアによりその有害性(危険性)が伝えられ、職場の作業者に不安感を与えている。
 このため、福岡県内の作業場で、健康障害の発生抑制対策を講じるために作業場の環境実態調査を行い、必要な対策を検討した。調査は、平成10年11月〜平成11年3月に福岡県内(北九州市周辺)の事業場を調査対象とし、本調査研究の主旨を了承された6事業場(単位作業場所数12)で行った。
2-1.電礎界・騒音(低周波騒音)の測定

 事務所内の電磁湯(60HzとELF電磁界)の測定を行った。ELF電磁界は、作業実施時にVDT機器のディスプレー画面中央前方約30cm(CRTと作業者の中間点)を測定点とした。60Hz電磁界も同じ場所で計測した。
 事務所のほぼ中央付近で、騒音測定を行った。同一の場所で騒音の周波数分析を行い、低周波騒音(1〜50Hz)の騒音レベルを測定した。
2-2.その他の作業環境の測定

 測定対象の作業場の気温・湿度・照度・気流・一酸化炭素濃度・二酸化炭素濃度・粉じん・においの測定をあわせて行った。
2-3.作業者へのアンケート調査

 個々の作業者が、作業場に対してどのように感じているかを調査するため、POEM-0と呼ばれる「計画された居住環境の居住者に対する動的効果の検証」に従ってアンケート調査を行った。
 このアンケートは、作業者が職場環境に対して持つ印象を数値化されるため、職場環境の快適度評価に有効であった。
3.結果

 電磁界測定の結果は、VDT作業による電界強度が0.1〜14.3V/m・磁界強度が0.4〜300mA/mであった。60Hz(商用電力)による電界強度が0.5〜64.0V/m・磁界強度が9.2〜230mA/mであった。この結果は、いずれも曝露限界の値と比較して非常に小さな値であった。
 騒音測定結果では、騒音計のA特性での測定値は51.4dB〜59.1dBの結果が得られ、良好な状態であると判断された。しかし、C特性またはF特性での測定結果では20〜30dB程度高い値を示していた。
 周波数1〜50Hzを測定対象とする低周波騒音計を用いて測定した結果では、中央値が68dB〜80dBの範囲になっていた。
 照度の測定結果は、作業面(机上面・キーボード面)で300ルクス未満の作業場が認められた。
 また、窓のカーテンやブラインドの使用が適切でないために、著しいグレアを起こしている作業場があった。
 一酸化炭素濃度は、最大値2ppmで、全て基準を満足していた。しかし、二酸化炭素濃度については、4作業場で1000ppm以上の値が得られた。
 室温・湿度・気流・粉じんは、全ての作業場で基準を満足していた。
 においセンサーを使用した「におい」の測定結果は、15〜73の値が得られた。  作業場に対する印象のアンケートの結果は、5事業湯で得られた回答の集計で、3.03〜4.03点(5点滴点)が得られた。
4.まとめ

 今回対象とした作業場は、いずれも禁煙の作業室であり、一酸化炭素濃度や気中粉じん濃度等の空気環境としては良好な作業場が多かった。
 「におい」の測定結果は平均50.7の値が得られたが、作業者のアンケートで「におい」項目では2.8〜4.8の集計結果が得られており、作業者の印象と「においセンサー」で得られた値は対応していなかった。
 照度やCRTへの写り込み等のグレアの発生が多く認められた。これらは、基発第167号「VDT作業者に係る労働衛生教育の推進について」に規定された正しい作業者教育を徹底する必要があると考えられる。
 また、多くの事業場で非常に強い関心を示された、電磁界強度については、健康障害を直ちに引き起こすほどの強い電磁界が発生している作業場は、確認されなかった。しかし、このような微弱な電磁界の健康影響は研究されていないため、今後の調査が必要であると考えられる。
 騒音測定の結果からは、VDT・コンピューターの出力装置として多く使用されていた、インパクト方式のプリンター(ドットインパクト方式やラインプリンタ)が変更され、レーザープリンタやインクジェット方式になり著しい騒音を発することは少なくなった。
 しかし、コンピューター・プリンター・コピー機・空調機器で発生する可聴域では微弱な騒音が、超低周波(聞こえない音=インフラサウンド)を発生していることが確認された。
 このような、低周波騒音に対して心理的不快感を持つ作業者がいることも事実であり、個人の感覚の問題としてしまうことのないようにすべきである。
 専用の測定機器を使用して簡単に計測でき、原因を明確にし対策を講じることでより快適な職場環境を形成できる。
 POEM-Oによるアンケート調査は、作業者が職場環境に対してどのような印象を持っているかを数値化して把握でき非常に有効な方法であった。
 このアンケートの結果からは、「作業者は、勤務している作業場以外の職場環境をよく知らないため、現在の職場が普通であると考えるか、他の職場より劣悪であると考える傾向がある。」が認められた。
 以上の結果から、通達で示された作業者教育や管理者教育を受けていない、事業場の管理者や個々の作業者に対して、どのようにして正しい情報を提示し、労働衛生教育を行っていくかが今後の課題である。