ビル建築工事に伴うコンクリート研磨作業における粉じん障害の防止について
調査研究課題名
ビル建築工事に伴うコンクリート研磨作業における粉じん障害の防止について
主任研究者
酒井 淳(福岡産業保健推進センター所長)
共同研究者
田中 勇武(産業医科大学産業生態科学研究所・福岡産業保健推進センター相談員)
井上 雅弘(九州大学工学部)
大和  浩(産業医科大学産業生態科学研究所)
葉山 勝美((財)西日本産業衛生会)
徳渕 久人((財)九州産業技術センター)
黒木 孝一(福岡産業保健推進センター相談員)
1.はじめに

 粉じん障害防止対策については、労働省において昭和56年より4次にわたり、適切な作業環境管理、作業管理、健康管理及び労働衛生教育等の推進を内容とする総合的な対策を推進してきた。その結果、平成8年には昭和56年当時に比べ、じん肺の新規有所見者の発生数が概ね10分の1にまで減少している。しかしながら、じん肺及びじん肺合併症の発生は依然として多い状況にある。
 さて、建設業における粉じん作業としては、従来からトンネル工事やコンクリートはつり工事等が主なものであったが、近年建設工事現場では、作業の合理化等に伴い作業工程・作業方法が変化し、新しい工程のなかに著しい粉じんの発生する作業がみられるようになった。
 今回の調査対象である「ビル工事等における壁面等に対するコンクリート研磨作業」(以下、「コンクリート研磨作業」と略する。)は粉じん障害防止規則の別表第1の「岩石又は鉱物を裁断し、彫り、又は仕上げする場所における作業」又は「研ま材の吹き付けにより研まし、又は研ま材を用いて動力により、岩石、鉱物若しくは金属を研まし、若しくはばり取りし、若しくは金属を裁断する場所における作業」に該当するものと考えられる。
 ところで、実際に行われているコンクリート研磨作業では、
(1)じん肺健康診断の実施が適正に行われていないこと。
(2)大部分の作業者が半面形の防じんマスクを使用しており、一部では使い捨て式の防じんマスクを使用していること。
(3)研磨作業従事者以外の他の作業者が、当該研磨作業時に防じんマスク等もなく、著しく粉じんの発生しているなかで同時作業を行っていること。
等の問題点が認められる。
 このため、著しい粉じん発生の認められるコンクリート研磨作業における個人曝露量や作業環境中の吸入性粉じん量・総粉じん量の測定、防じんマスクの評価等を行うことにより、粉じんの発生状況を把握し、早急に労働衛生対策をとる必要があると考えられ、本調査を実施した。
2.調査方法

(1)対象作業場
 福岡県内12カ所のビル建築工事現場でコンクリート型枠撤去後のコンクリート研磨作業を行う作業場
(2)作業環境測定方法等
 1)作業環境測定方法
 作業環境測定基準に従って実施した。
 2)測定項目、使用機器、分析方法
 粉じん作業環境気中渡度・曝露粉じん濃度
 3)その他
 作業環境濃度、個人曝露濃度の測定はコンクリート研磨作業を行う作業者の1サイクルの研磨作業工程を1回として実施した。
3.結果

 各作業場毎に作業方法が異なっているため、作業環境測定の結果の評価は、非常に劣悪な環境から良好な環境まで様々であった。
(1)サンダー等に全く局所排気装置(動力集塵機付きのもの、あるいはサンダーの回転力・慣性力を利用して集塵するもの)を使用せず、かつ送風機も使用しない場合

  作業環境中の粉じん気中濃度
   3.72〜115mg/m3
  曝露濃度
   18.75〜81.93mg/m3

(2)サンダー等に全く局所排気装置(動力集塵機付きのもの、あるいはサンダーの回転力・慣性力を利用して集塵するもの)を使用せず、送風機を使用した場合

  作業環境中の粉じん気中濃度
   0.05〜21.7mg/m3
  曝露濃度
   17.97〜53.09mg/m3

(3)サンダー等に局所排気装置(サンダーの回転力・慣性力を利用して集塵)を装着して使用した場合

  作業環境中の粉じん気中濃度
   0.05〜4.31mg/m3
  曝露濃度
   17.97〜53.09mg/m3

(4)サンダー等に局所排気装置(動力集塵機付き)を装着して使用した場合

  作業環境中の粉じん気中濃度
   0.06〜0.77mg/m3
  曝露濃度
   0.93〜1.75mg/m3

 遊離ケイ酸含有率は、1〜8.2%の分析結果が得られ、平均値は、約3%であった。  この結果から、平均的遊離ケイ酸を含有するコンクリート研磨粉じんの管理濃度は1.75mg/m3となる。
4.考察

 今回のコンクリート研磨作業における調査は4種類のケースで、その各々に対する作業者の防じん対策については次のとおりである。
(1)サンダー等に全く局所排気装置(動力集塵機付きのもの、あるいはサンダーの回転力・慣性力を利用して集塵するもの)を使用せず、かつ送風機も使用しない場合
  遊離ケイ酸の含有率は3%程度であるので、粉じんの許容濃度は1.75mg/m3となる。マスクの有効性を考慮すると、電動ファン付き呼吸用保護具が必要と考えられる。
(2)サンダー等に全く局所排気装置(動力集塵機付きのもの、あるいはサンダーの回転力・慣性力を利用して集塵するもの)を使用せず、送風機を使用した場合
  この作業場では、よく整備・管理された防じんマスクを十分に呼吸用保護具の着用訓練を受けた者が着用したとしても、半面形防じんマスクの使用許容限界の値を超過している。やはり、送風機を作業中に稼働させたとしても電動ファン付き呼吸用保護具が必要と考えられる。
(3)サンダー等に局所排気装置(サンダーの回転力・慣性力を利用して集塵)を装着して使用した場合
  この作業場では、よく整備・管理された防じんマスクを十分に呼吸用保護具の着用訓練を受けた者が着用すれば、半面形防じんマスクにおいては使用可能と考えられる。しかし、いったん集塵した粉じんの一部を環境中に再度まき散らすという欠点がある。
(4)サンダー等に局所排気装置(動力集塵機付き)を装着して使用した場合
  この作業場では、よく整備・管理された防じんマスクを十分に呼吸用保護具の着用訓練を受けた者が着用すれば、十分に半面形防じんマスクで使用可能と考えられる。
(5)コンクリート研磨作業に直接従事している以外の作業者に対する対策
  コンクリート研磨作業に直接従事していないが、研磨作業場内又は近傍において他の作業を行っている作業者には、短時間でも作業場所に入る場合は、半面形の呼吸用保護具を使用させることが必要である。
5.まとめ

住宅用のビル(マンション等)では、床面積約20〜70m2の室内で壁面・天井等の研磨作業が行われる。この作業範囲で、パーソナルカスケードインパクターを使用して得られた、作業場の「場」と「曝露」の平均粒径の相関は、相関係数R=0.975で非常によい相関が認められ、「場」と「曝露」の粉じんに差は認められなかった。
 粉じん障害を引き起こす吸入性粉じんの粒径は7.07μm以下といわれているが、各作業場の粉じんの平均粒径(50%粒径)は、4.09〜7.70μmであった。
 各作業場における平均粒径のバラツキは、コンクリートの骨材・作業用工具に起因すると考えられる。
 また、粉じん中の遊離ケイ酸含有率は、1%未満〜8.2%であり、使用されている骨材・砂利の産地による差によると考えられる。
 各建築工事現場では、コンクリート研磨作業以外の作業(配管・ダクト・内装・モルタル仕上げ)等が併行して行われていた。呼吸用保護具(防じんマスク)を使用していたのは、研磨作業に従事する作業者だけであった。
 一般に建設業における粉じん作業は、有害物の発散源と作業者の位置が非常に近接して行われ、じん肺の新規有所見者も確認されている。
 建設工事現場のコンクリート研磨作業において、作業環境管理対策として何らかの設備対策をとることは非常に困難である。このため、工具の改良により作業環境管理を徹底させることが現段階で有効であることは、今回の調査で示された。粉じん障害の防止のためには、作業工程毎の作業環境を把握することが必要であり、(社)日本作業環填測定協会により提言された「屋外等の作業環境測定報告書」に基づいて、作業環境測定の実施を行うことが望まれる。