職場に役立つ作業管理チェックリストの開発に向けて
調査研究発表(抄)
職場に役立つ作業管理チェックリストの開発に向けて
主任研究者
酒井 淳(福岡産業保健推進センター所長)
共同研究者
神代 雅晴 相談員(産業医科大学産業生態科学研究所)
東  敏昭 相談員(産業医科大学産業生態科学研究所)
北本 良也 相談員(福岡産業保健推進センター)
馬場 快彦 相談員(福岡産業保健推進センター)
長谷川徹也(近畿大学九州工学部)
田中 雅人(トヨタ自動車九州(株))
甲斐 章人(広島安芸女子大学)
1.産業保健活動における作業管理の活動の現状

 産業医が行うべき活動の一つとして作業管理が挙げられる。作業管理活動は産業保健活動の五つの柱の一つと言われているが、残念ながら日本では最も遅れた活動領域である。

 作業管理とは、作業者に有害な作業を減少させるための作業手順や作業方法の改善、過大作業負荷や不良作業姿勢等の改善等を行って、作業が作業者の身体へ及ぼす悪影響を減少させることである。さらに、保護具の設計、改善、適正な使用方法の指示等も対象業務となっている。21世紀を迎え、産業保健活動は、高年齢労働問題、メンタルヘルス問題、婦人労働問題、ホワイトカラーの夜勤交替制問題、IT対応型労働に関する問題…等々と様々な作業管理上の難問に直面している。このような産業保健上の課題の変化を反映して、作業管理が重要な役割を演じることが徐々に認識され始めてきた。作業管理を総じて言えば、作業条件の設定と人間工学的設計基準の通用(Work Conditions and Ergonomics)と言えるであろう。しかし、日本の産業保健活動は法規準拠型(Rules−Based)の活動に留まっているため、他の作業環境管理、健康管理活動等と比べて、体系的な作業管理対策が確立されていない。一方、欧米先進諸国においては、1972年に英国で出されたRobens Report以来、自主対応型(Enabling)の産業保健活動が展開されつつある。自主対応型の活動はWork Conditions and Ergonomics(作業管理)の重要性を認めさせ、現在、産業保健活動の重要な側面を担っている。著明な体系的作業管理マニュアルとして、ILOが1996年に出版した「人間工学チェックポイント」が挙げられる。
2.二つの異なる作業管理

 現在、わが国を産業医あるいは産業医学研究者が調査対象に応じたそれぞれの作業管理マニュアルを作成し、使い始めてきた。しかし、それらの大半が働く人々の安全と健康確保を余りにも強く意識し過ぎたものであるために、経営層、生産管理層に疎まれ、企業全体として有効利用されていない。

 そもそも作業管理は、生産管理、工場管理等の部門で品質の確保、能率の向上、無駄の排除等をスローガンとして考え出されてきた概念である。それ故、同じ漢字で配列された言葉でありながら、産業保健部門とは全く相反する視点から作業条件を見つめているものである。そこで、本研究は、従来から産業医学の現場で個別的にすすめられてきた作業管理領域のチェックポイントを整理し、次いで従来の産業医学領域では全く考えられなかった生産管理領域のチェックポイントで、かつ、産業医学領域に導入しなければならないチェックポイントを抽出網羅し作り上げることとした。そして、最後に両者を融合した作業管理チェックリストを作ることを目的とした。但し、最終の融合段階は、平成13年度の課題として、最終段階に向けて進行中である。
3.産業保健の視点で立案した生産管理チェック項目の概要

 「生産管理の自己診断チェックリスト」では生産管理において作業者と関連すると考えられる内容を選択し、チェックリストの章を構成した。チェックリストは「工程管理」、「作業研究」、「品質管理」、「工場レイアウト」、「運搬管理」、そして「設備保全」の6章からなっている。各章に含まれるチェック項目数は「工程管理」では10項目、「作業研究」では8項目、「品質管理」では14項目、「工場レイアウト」では9項目、「運搬管理」では8項目、「設備保全」では10項目で合計59項目である。
4.生産管理領域介入型のチェックリスト開発視点 一作業研究を例として−

1)作業研究は生産管理の基本分析手法と称され、工程分析、動作分析、時間分析などの手法を用い、作業場の問題点の発見、現状分析、改善立案、実施、解決と評価に至る手順で行われる。最終的な改善案の目標は、一般的に(1)負担軽減、(2)品質向上、(3)時間短縮、(4)経費節約等である。
2)8種の評価対象項目とそのチェックポイント
(1)5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の実施状況
(2)現場管理者(管理監督者)の作業状況
(3)現状把握の実施状況(工程分析、動作分析、時間分析などの基礎的なIE(Industrial Engineering)手法を活用して現状分析することが生産管理活動の基礎である。その実施状況を見る。)
(4)標準時間の設定(標準時間は工場経営の全ての管理の基本尺度となるものであり、「1日に何工程まで、あるいは1日に何個作るのが標準か」という考え方が大切である。そのために、標準時間の設定が不可欠である。また、標準時間は 作業の習熟により変化する。このため、標準時間と実績時間とを対照しているかが重要となる。さらに、基準日程の算出、日程計画の樹立、工数計算、原価計算が基礎となり、仕事における作業者の目標も明確になる。その設定状況を見る。)
(5)作業標準書(作業指導票)の作成度
(6)作業標準書の活用状況
(7)段取り時間の短縮に関する実施状況
(8)作業改善の実施状況
以上の評価対象項目それぞれに対して、下記の評価段階を設定した。
A:ほとんど行っていない
B:過去に実施
C:一部に実施
D:時々実施
E:定期的に実施
※ 事務局注
 本調査研究は、平成13年度に完了予定であり、調査研究終了後にまとめを掲載予定です。