福岡県下におけるメンタルヘルス対策支援ネットワークの構築
調査研究課題名
福岡県下におけるメンタルヘルス対策支援ネットワークの構築
主任研究者
酒井 淳(福岡産業保健推進センター所長)
共同研究者
永田 頌史(産業医科大学)
中村  純(産業医科大学)
三島 徳雄(産業医科大学)
副田 秀二(産業医科大学)
西島 英利(福岡県医師会)
伊東 清四郎(福岡県医師会)
南川喜代晴(北九州市立精神保健福祉センター)
1. はじめに

 これまでに北九州地区で、事業場、労働基準協会、医師会、嘱託産業医、大学病院、産業保健推進センターなどのネットワーク作りを試み、嘱託産業医、事業場の労働者、外来通院中の労働者、各事業場に対しての労働者の職業性ストレスの実態や受診行動、職場のメンタルヘルス対策の実態やネットワークに期待するサービス内容などに関する調査を行った。その結果、精神不健康と判定された労働者や過去5年間に過労やストレスによる健康障害を経験した労働者がそれぞれ約4割もいることや、回答のあった北九州市内の569事業場(回収率43%)でメンタルヘルス対策を行っている所は28%にすぎないことなどが判った。
 平成14年度は福岡県全体でのネットワーク(図1)を構築し、有効な支援活動を行うことを目的として県内の地域産業保健センター、医療機関、認定産業医を対象に、メンタルヘルス対策の実情やネットワークへの協力の意向と協力できるサービス内容などに関する調査を行った。
2. 調査方法

 1) 福岡県医師会の協力を得て、福岡県医師会に登録
されている認定産業医2198名に対して、質問紙調査を郵送法により平成15年1月に実施した。質問紙は、契約事業場数、産業医としての経験年数、専門領域、メンタルヘルスに関する相談や研修依頼の有無、及びその対応、「メンタルヘルス指針」などについての知識、産業保健支援のためのセンターやネットワーク利用の意向、ネットワーク協力機関としての参加の意志などに関する質問からなっている。比較には、年齢についてはt検定を、その他の質問項目については、X2検定を用いた。データ処理及び分析はSAS(バージョン8.2)を用いた。
 2)福岡県内の精神科医療機関に対する調査
福岡県精神病院協会、福岡県精神神経科診療所協会、県内の大学病院、労災病院を含む総合病院の精神科として把握することができた総計181施設を対象に、ネットワークへの参加を募った。
 3) 福岡県内の15労働基準協会、12地域産業保健センターに対して、本ネットワーク構築の趣旨と参加依頼の文章と参加の意向、担当者名、連絡先などに関する調査表を郵送し、回収した。
3. 結果

 1) 認定産業医に対する調査では、2198名のうち927名(回答率42.2%)より回答があり、400名からはメンタルヘルス対策支援ネットワークの中の協力機関として協力したいとの回答と連絡先の記載があった。調査内容に関しては、約6割の回答者が契約事業所を持っており、経験年数は5年以下が半数をしめ、専門領域に関しては内科系の医師が約60%、外科系が約27%、精神科系が5%であった。メンタルヘルスに関係した相談を受けた回答者は4割弱で、対応については6割が「精神科(心療内科)クリニックへ相談する」、2割が「自分で続けて治療する」を選択していた。
 約24%の回答者が教育、研修に対する要請を受けた経験を持っており、今後要請を受けた場合は、「産業保健推進センター、地域産業保健センターに相談する」が約29%で、自分が担当するが約27%、開業の精神科(心療内科)医に依頼するが約27%であった。産業保健支援のためのセンターを利用した経験のある回答者は15%であった。
 「契約事業場に精神面に問題がある事例が発生したり、事業場からの教育・研修依頼があったりした場合に、メンタルヘルス対策のためのネットワークがあれば利用したい」と回答した者は4分の3で、「どちらとも言えない」が2割であった。
  本ネットワークの中の医療機関として協力の意向を示した回答者(400人)は、精神科や心療内科系を専門とする医師が多かった。
 2) 福岡県精神病院協会、福岡県精神科神経科診療所 協会所属の精神科医療機関181施設のうち、118施設(65.2%)が本ネットワークへの参加に同意し、提供できるサービスとして、「診療を行う」が98%、「事例相談にのる」が75%、「(依頼があれば)教育講演をする」は31%であった。また、ネットワーク情報の開示の範囲としては、「福岡産業保健推進センターだけにとどめる」が39%、「広くホームページなどでも開示可」とした施設は77%であった。なお、この両方の選択肢を選んだ施設が17%あった。
 3) 福岡県内の15労働基準協会、12地域産業保健センターから本ネットワークへの参加の意向と連絡先、担当者に関する連絡があった。
考察

 以上の調査研究によって、福岡県内のメンタルヘルス対策支援のためのネットワークの大略が構築されることになった。
 今後、本ネットワークへの協力医療機関として参加の意志を示した認定産業医400人に対して、提供できるサービスの内容、情報開示の範囲などに関する調査を行い、メンタルヘルス対策支援ネットワーク(図1)に追加する予定である。これらのネットワーク作り活動の中で形成された人脈やホームページや広報誌などへのネットワーク情報の開示によって、現在散発的に行われている事例相談や教育研修支援活動も活発になるものと期待される。
 なお、平成14年度は2地区の労働基準協会や精神保健福祉センターと連携して教育研修やシンポジウムの開催を行ったが、今後本ネットワークを活用して組織的なメンタルヘルス対策支援を進めてゆく予定である。
図1 福岡県下のメンタルヘルス支援ネットワーク