病院における職場巡視チェックリストの開発に関する研究
調査研究課題名
病院における職場巡視チェックリストの開発に関する研究
研究代表者
馬場 快彦(福岡産業保健推進センター所長)
共同研究者
高田 和美(産業医科大学産業医実務研修センター所長)
藤代 一也(産業医科大学産業医実務研修センター講師)
中村  正(産業医科大学産業医実務研修センター学内講師)
鎌田 豊彦(産業医科大学産業医実務研修センター学内講師)
吉見公三郎(産業医科大学産業医実務研修センター助手)
中川  徹(産業医科大学産業医実務研修センター助手)
1.はじめに

 我が国の医療施設は病院、一般診療所、歯科診療所合わせて14万5千強(平成3年)存在し、うち病院は約1万となっている。このうち100床以上規模の病院は5601で、100床あたりの従事者は約80人であることを考慮すると、少なくともこれ以上の箇所で産業医の選任が必要となっており、月1回以上の産業医による職場巡視が行われていなければならない。
 病院で従事する様々な職種の人々の安全と健康をまもることは、その総数が135万人を超える(診療所の約59万人、歯科診療所の約27万人を除く)ことからも重大な意義を持つと考えられる。そして、この病院従事者の安全衛生を推進していく際には、前述の病院の産業医は中心的役割をはたしていくことが望まれる。しかし産業医の現状をみると、職場巡視は労働安全衛生規則上も毎月1回以上実施することとなっていながら、その実施率は低い。我々の平成5年度産業保健調査研究(中小企業における産業保健活助の阻害因子と促進因子に関する研究)においても、毎月産業医の職場巡視が実施されている企業は、調査企業の16%弱に過ぎなかった。
 一方、労働福祉事業団が行った産業保健実態調査(平成6年3月)では、産業保健活助の相談内容として聴場巡視の方法に関することが26%強もあり、産業保健推進センターの調査研究成果として職場巡視用チェックリストを利用したいとする産業医が39%強もいた。これらのことから、産業医のかなりの者が職場巡視に慣れておらず、職場巡視に関する知識や技術の習得を希望していることが伺われる。
 このようなことから、産業医が日頃慣れ親しんだ病院(診療所)の職場巡視用のチェックリストが開発されれば、それをもとに病院の職場巡視を実施し、もって病院従事者の安全と健康の確保に寄与するとともに、その経験を彼等が嘱託で産業医活動を行っている一般事業場での職場巡視に生かしうることも期待される。
2.目的

 以上のことから、本調査研究においては病院の産業医が職場巡視を実施する際のチェックリストを開発することを目的とした。
 これまで各作業の作業チェックリスト(作業標準様)は欧米でいくつか開発されているところであるが、我が国の労働安全衛生法を中心とした各種の法律や通達等を背景とした、産業医の職場巡視用のチェックリストは調べ得た限りでなく、新しい成果が期待される。また、このチェックリストは全国で数千と思われる50人以上の職員をようする病院における産業医の職場巡視の質・量を高め、もって病院の産業保健を向上させうるだけではなく、一般事業場の産業医は病院の医師が多い現状から、一般事業場での産業医の職場巡視を活発化することをも期待される。
3.方法

 産業医による病院の職場巡視は、以下のような条件で実施された。
 時;平成7年1月〜2月
回数;合計10回
人数;各回2名
場所;某医科大学付属病院(600床強を有する総合病院)

巡視したのは、外来診療部門、病棟部門、放射線部、薬剤部、臨床検査部門、事務部、栄養部(病院給食)、手術部(手術室)、その他集中治療室、中央材料部)である。
 各回の巡視終了後、担当2名の産業医により検討し、報告書を作成した。その後、全産業医による検討会を開き、意見の交換をした。そして、外来診療部門、病棟部門、放射線部、薬剤部、庄床検査部門、事務部、栄養部(病院給食)についてはチェックリストの作成を行った。
 チェックリストを作成した後には、他の病院(総合病院)にても試用し、若干の改良を加えた。
4.結果・考察

「外来診療部門」については、全体の環境について8項目、付帯設備等について4項目、作業場の環境について11項目、作業の管理について14項目、感染事故防止対策について6項目の合わせて43項目が挙げられた。 「病棟部門」については、全体の環境について10項目、付帯設備等について4項目、作業場の環境について11項目、作業の管理について4項目、勤務態勢について2項目、感染事故防止対策について6項目の合わせて37項目が挙げられた。
「放射線部」については、放射線取り扱い主任者及び作業主任者については2項目、全体の環境については8項目、付帯設備等については4項目、作業場の環境については4項目、作業管理については9項目、感染事故防止対策については6項目の合わせて33項目が挙げられた。
「薬剤部」については、作業組織については10項目、全体の環境については10項目、付帯設備等については4項目、作業場の環境については10項目、作業姿勢と動作については10項目、作業者の身体的、精神的負担については10項目、作業の時間的要素については10項目、その他の労働衛生対策については9項目、薬剤・調剤については10項目、情報源については10項目の合わせて93項目が挙げられた。 「臨床検査部門」については、全体の環境については9項目、付帯設備等については4項目、作業場の環境については8項目、作業の管理については6項目、病院病理の有機溶剤取り扱いについては6項目の合わせて33項目が挙げられた。
「事務部」については、作業組織については18項目、全体の環境については10項日、付帯設備等については4項目、作業場の環境については10項目、作業姿勢と動作については10項目、作業者の身体的、精神的負担については10項目、作業の時間的要素については10項目、その他の労働衛生対策については10項目、VDT機器及びカルテ等については10項目、情報源については10項目の合わせて94項目が挙げられた。 「栄養部」については、安全衛生担当者及び作業主任者については2項目、全体の環境については11項目、付帯設備等については8項目、機器設備等については15項目、冷蔵庫については5項目、作業の管理については3項目の合わせて44項目が挙げられた。
 以上合わせて377項目が挙げられた。
 本チェックリストは病院の産業医が職場巡視する際に用いるもので、各作業の作業標準書あるいは衛生管理者、安全管理者の職場巡視の際使用するチェックリストは別途作成することが望ましいと思われた。