福岡県における粉じん作業の実態調査
調査研究課題名
福岡県における粉じん作業の実態調査
研究代表者
馬場 快彦(福岡産業保健推進センター所長)
共同研究者
黒木 孝一(黒木労働衛生コンサルタント事務所)
保利  一(産業医科大学)
葉山 勝美((財)西日本産業衛生会)
徳渕 久人((財)九州産業技術センター)
1.はじめに

 作業環境測定の実施及び結果に基づく改善によって、劣悪な環境の作業場は漸減している。また、一方では、中央労働災害防止協会の粉じん作業に係る特殊健康診断実施状況及び福岡労働基準局調査によれば、特定粉じん作業以外の粉じん作業(とくに機械金属加工・鉄工)による有所見者が微増傾向にある。
 昭和61年11月に労働省が実施した労働安全衛生特別調査の結果「危険・有事業務作業環境の実態」を参考にし、福岡県内の有害業務(鉄工・機械金属加工業の粉じん作業に関する業務)の実態調査を行い、より効果的な職業性疾病の予防方法を検討した。
 管理された作業場での低濃度長期曝露、また作業方法・姿勢によっては、高濃度の曝露を受けることも考えられる。
 このため有害物質の作業環境気中濃度(以下気中濃度)の管理手法に曝露濃度をとり入れ、従来の「場の測定」との相関を検討し、より的確な職業牲疾病の予防方法を得ることを目的とした。平成7年1月〜3月に溶接作業を行っている福岡県内(北九州市周辺)の事業場を調査対象とし、本調査研究の趣旨を了承された事業場(単位作業場所数20)で調査を行った。
2-1.作業環境気中濃度の測定

作業環境気中に基づく作業環境測定を行い、アンダーセンサンプラーを用いて、併行測定点での粉じんの粒度分布を求めた。各単位作業場所の測定結果に基づく評価は、対象とした事業所13杜(単位作業場所数20)のうち、第1管理区分が1単位作業場所、第3管理区分が19単位作業場所であった。
2-2.曝露濃度の測定

 対象事業場の衛生担当者・作業責任者に、もっとも代表的作業を行う作業者を測定対象者として、各作業域毎に抽出してもらった。
 対象作業者の作業内容・作業時間のタイムスタディを記録するため、作業者毎に観察者を常駐させ、休憩時間はサンプリングを停止した。
 サンプリング時間は、作業を開始した時間から事業場の所定終了時までとし、時間外労働は対象としていない。
 労研式TRサンプラーとパーソナルカスケードインバクターを使用し、吸入性粉じんの濃度と曝露している粉じんの粒度分布を調査した。
2-3.電子顕微鏡による粉じんの実態確認

 気中粉じんと曝露粉じんの粒度分布に相違が認められたため、同一作業場のサンプルについて電子顕微鏡による写真撮影を行い、粉じんの状態の確認を行った。
3.結果

 今回の調査では、曝露濃度と幾何平均濃度、最大濃度、B測定値との相関は認められない。
 このように、幾何平均濃度と作業環境測定の結果の間に相関が認められない原因としては、作業日1日を測定対象とする曝露の測定と、1日の作業の中で、最低1時間を対象とする現行の作業環境測定との違いが考えられる。また、作業の内容により溶接ヒュームの発生源と作業者の位置、局所排気装置の有無・使用方法により曝露濃度が著しく異なることが認められた。曝露濃度の測定の結果は、労研式TRサンプラーとパーソナルカスケードインバクターの測定対象者が異なるため、作業内容の違いから良い相関は得られなかった。  粉じんの粒度分布の調査結果では、「場の粒度分布」では、粒径0.3μmと4μmに分布のピークがあり「曝露の粒度分布」では、粒径0.3μmと8〜12μmに分布のピークがあり、分布が異なる傾向が認められた。
 溶接作業により発生したヒュームの多くは、発生時の電場の影響により磁化し、互いの磁場により会合し、見かけの粒径を大きくしていること、ヒュームの形状が均一な粒状ではなく綿埃状、ウイスカー(針状)、粒状と様々であることが電子顕微鏡写真により確認された。
4.考察

 溶接作業の様に、有事物の発散源と作業者の位置が非常に近接して作業が行われる場合は、作業環境測定の結果の評価が、B測定の値によって著しく変動する。今回の調査の結果と、以前行われた作業環境測定の結果とを比較すると、B測定値が大きく異なる作業場所が多く認められた。
 B測定の結果は、測定実施者が意図的にサンプリング場所・サンプリングのタイミングを決定して行うため、測定実施者の経験・資質に左右される。
 アンダーセンサンプラーやパーソナルカスケードインバタターを用いた、粉じんの粒度分布では、粉じんの磁界による影響が認められたが、作業環境管理や作業管理に有効なデータが得られた。  非常によく管理された作業場所では、局所排気装置に粉じんが捕捉され、曝露粉じんの粒径1μm以下の割合が非常に小さくなっていた。
 従来の作業環境測定に使用される測定機器(デジタル粉じん計)が、低濃度の有害物を測定することを目的に製造され、瞬間的に非常に高濃度になる溶接作業のヒュームに対して信頼性が保証できない場合がある。また、作業環境測定の評価の結果により、第1管理区分であれば、職業性疾病が先生しないと考えている事業場も多く認められる。
 しかし、作業環境測定は、作業場所の環境を管理する手法であり、作業者の健康管理に関しては、間接的手法である。
 今回の調査の繕果、粉じん障害の発生を予防するためには、作業環境測定や曝露濃度測定等を有効に利用し、各作業者に作業の有害性を認識させ、作業場所で有効な保護具(防じんマスク等)を確実に使用させることが必要であることが確認された。
 このため、溶接作業に関して「特定粉じん作業の特別教育」と同等の粉じんの有害性に関する教育を徹底し、単位作業場所内で呼吸用保護具を確実に使用することが必要である。
 また、溶接作業において、安全衛生に関して考慮する必要がある項目として、ヒューム・粉じんによる障害以外に眼障害(赤外線・可視光線・紫外線)、感電事故、騒音等があり、これらに対して十分な保護対策を考えなければならない。